🧠 DNMは“魔法”ではない。それでも、臨床に必要な理由
目次
1. 批判もある。でもそれは真実を求める声
DNM(Dermoneuromodulation)は「皮膚にやさしく触れるだけで痛みを軽減する療法」として話題です。しかし、すべての痛みに万能に効くわけではありません。
- Ross Turchaninov博士(2017)は「DNMは古典的手技の焼き直しに過ぎず、『すべてを治す』という宣伝は問題」と指摘。
- カナダの大学では、DNMを加えた運動療法が痛みに差を出せないという臨床試験が登録されるなど、科学的に検証されつつあります。
2. DNMは万能ではない。でも、「無意味」でもない
DNMの提唱者であるDiane Jacobs自身も、以下を明言しています:
- 急性炎症やがんには使えない
- 対象は、神経系が過敏化した慢性痛
- 目的は構造的な変化ではなく、神経の“意味づけ”の再学習
つまり、DNM=すべての痛みを消す魔法という考えは、最初から存在しなかったのです。
3. なぜ「やさしい触覚」が新しい注目を集めるのか?
🔬 皮膚には C-tactile(CT)線維 と呼ばれる触覚神経が存在し、やさしい皮膚刺激が安心感を伝えることで、痛みの伝達を抑える可能性があります。
- Fidanzaら(2021)によると、時速10cm/sのやさしい撫でで「ウインドアップ」の痛覚が有意に軽減されたことが報告されています
- CT線維の刺激は、慢性痛患者でも不快感や痛み強度を減らす傾向があると報告されています 。
このように、やさしい触覚を通じて神経系に“安心”を学ばせるアプローチが、DNMの神経生理学的支柱となっています。
4. 臨床的な成果は?エビデンスを見てみると…
- Salgado et al.(2022):繊維筋痛症患者対象のRCTで、DNM類似のGentle Touch Therapyがプラセボ群に比べて6ヶ月にわたり痛み・情動症状の改善を示しました。
- Mathankumar(2019):SLAP修復後のアスリートにDNMを併用。可動域と痛みが通常療法より有意に改善。
- Nishar Basha(2019):頸椎症患者に4週間DNMを実施。VAS痛みスコアとNDIが臨床的に改善。
これらは初期的な研究結果ですが、DNMの精神・機能両面へのポテンシャルを示しています。
5. DNMは「構造」ではなく「神経」を整える技術
DNMは、単なるソフトな手技ではなく、神経・脳の認知システムに働きかける認知再学習的アプローチです。
以下のエビデンスがその支持基盤です:
- CT線維刺激による安心信号が下行性疼痛抑制を誘発
- DNMによる自己効力感の向上:施術を受ける人が「自分で痛みをコントロールできる」と感じる心理的効果
- “痛みの意味づけ”に働きかける点が評価されている
6. 今後の課題:慎重かつオープンな臨床へ
今後のDNM研究・臨床としては、以下の視点が重要です:
- より無作為化比較試験(RCT)や対象を拡げた研究の実施
- PSE、CBT、運動療法との併用効果の検証
- 評価基準(痛み・機能・QOL・心理)について明確化
✍️ まとめ:DNMは“魔法”ではない。でも、“無力”でもない
✅ DNMはすべての痛みに効く魔法ではありません
✅ 「皮膚へのやさしい触覚で神経系を整える」という新しい疼痛管理の可能性を含んでいます
✅ 臨床では、構造ではなく神経機能をターゲットとした選択肢として価値があります
✅ 批判的でありつつも、効果と限界を正しく理解して柔軟に応用する姿勢が必要です
DNMは、痛みへの対応を“構造的+神経的”アプローチで再構築する上で、有力な道具となりえます。科学的根拠と臨床感覚、その両輪で使うことが、今求められています。