今年も梅雨が明け、いよいよ夏本番ですね。湿度の高い日々からは少し解放されつつありますが、「この時期になると頭痛が増える」「関節が重だるい」と感じる方、意外と多いのではないでしょうか。
気圧や湿度、気温の変化によって引き起こされるこうした体調の変化は、「天気痛」や「気象病」と呼ばれます。特に理学療法士や整体師など、痛みのケアに関わる職種にとって、この季節特有の体の反応を理解することはとても大切です。
天気痛とは? ― 気象が誘発する多様な疼痛
「天気痛」とは、気圧・気温・湿度などの気象条件の変化によって悪化する痛みの総称です。
国内外の研究でも、以下のような疾患で天気の影響が報告されてます:
- 片頭痛
- 関節リウマチ
- 線維筋痛症
- 変形性関節症(OA)
- 慢性腰痛
- 神経障害性疼痛 など
例えば、気圧が下がると関節や神経の痛みが強まる傾向があることが、14件の研究を対象としたシステマティックレビューでも確認されています。気圧と湿度が高いほど痛みが増し、逆に気温が高くなると痛みがやや和らぐという傾向が見られました。
なぜ天気で痛くなるのか?
天気痛の詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、いくつかの有力な仮説が示されています。
1. 内耳の気圧センサー説
内耳にある気圧センサー(前庭核など)が気圧変化を感知し、脳幹に刺激を送ることで痛みの感受性が高まるというものです。マウス実験では、気圧の低下により前庭核の活動が活発になり、痛み行動が増加しました。
2. 交感神経系の活性化
気圧の低下が交感神経系を刺激し、疼痛の悪化につながるという説もあります。動物実験では、交感神経を遮断すると気圧低下による痛み増悪が消失したことが報告されています。
3. ホルモン・神経伝達物質の変化
気圧変化によってセロトニンやCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)といった神経伝達物質が変動し、頭痛や神経性疼痛が誘発されることも示唆されています。特に片頭痛では、これらの物質が重要な役割を果たすと考えられています。
実際の臨床研究からわかること
天気痛の影響は、変形性関節症やリウマチ性関節炎、線維筋痛症などでは比較的安定して報告されています。一方、片頭痛などでは一貫性のない結果も多く、因果関係はまだ議論の余地があります。
患者さんの多く(約6〜97%)が「天気で痛みが変化する」と感じていますが、科学的には「信じているほど明確ではない」というのが現時点の結論です。とはいえ、痛みの経験は主観的であり、「感じている」こと自体が無視できない重要な事実です。
天気痛へのセルフケア対策
天気痛は完全に防ぐことは難しいものの、日常生活でできるセルフケアによって痛みを和らげる・コントロールすることは可能です。
1. 温熱療法(あたためる)
患部を温めることで、血流が良くなり筋肉の緊張が緩和されます。温熱パックや蒸しタオル、温泉などが代表的です。変形性関節症の研究でも、温熱療法が痛みの軽減と関節の機能改善に効果があったと報告されています。
2. 運動療法・ストレッチ
ウォーキングやヨガ、ストレッチなどの軽〜中強度の運動は、慢性痛の改善に有効とされています。特に膝関節症や慢性腰痛では、運動が機能改善やQOL向上につながるとする高いレベルのエビデンスがあります。
3. 生活習慣の見直し
- 規則正しい睡眠と起床時間
- 栄養バランスの取れた食事(朝食抜きは避ける)
- 水分をしっかり摂る
- カフェインを適度に活用する
- 過度なストレスを避ける
こうした習慣が自律神経の安定化に役立ち、天気痛の発症・悪化を予防する効果があります。
4. 耳マッサージや温め
内耳センサーに働きかける対処法として、耳のマッサージや温めが提案されています。軽く耳を回す「くるくる耳マッサージ」や、蒸しタオルで耳全体を温めるなど、簡単にできる方法です(科学的根拠はまだ弱いですが、リスクも少ないため有効な手段とされます)。
5. 痛み日記やアプリで記録をとる
「いつ、どんな天気のときに痛みが強くなるのか」を記録することで、自分なりの傾向を把握し、対策が立てやすくなります。医師に相談する際の資料としても有効です。
必要に応じて、他職種と連携を
- 内耳の異常が疑われる場合は耳鼻科受診を
- 頭痛が強い、日常に支障がある場合は神経内科への相談を
- 症状に応じて、漢方や抗めまい薬の選択肢も
まとめ:「天気のせい」にしていいんです
天気痛は“気のせい”ではなく、実際に神経や自律神経が関わる身体の反応です。理学療法士としては、季節の変化に対する感受性を理解し、その時々に応じたケアとアドバイスを提供することが求められます。
「梅雨が明けたから安心」ではなく、「これからの気圧変化にも備える」という視点を持って、患者さんの体調を支えていきましょう。
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