心に浮かぶ、あの問い
臨床の現場では、日々さまざまな人々と出会います。患者さん、同僚、上司――時には、自分とは全く異なる価値観を持つ人とも接することがあります。そんな中で、ふと心に浮かぶことはありませんか?
- 「なぜ、そんなことを言うのだろう?」
- 「どうして、そういう行動をとるのだろう?」
- 「理解できない…」
そんなとき、思い出してほしい問いがあります。
「この人は、善と悪についてどんな原則を持っているのだろうか?」
人はそれぞれ、“自分なりの原則”で生きている
この問いは、古代ローマの哲人マルクス・アウレリウスが残した言葉です。彼は、人は皆、快楽と苦痛、名誉と不名誉、生と死などに対する自分なりの原則を持って生きており、その原則に基づいて合理的に行動していると考えました。
つまり、「理解できない行動」は存在せず、「自分と異なる前提で動いている人がいるだけ」なのです。
この考え方は、現代の臨床現場でも深く通じるものがあります。
臨床における“対話”とは、原則を聴き取ること
例えば、
- 説明してもなかなか生活習慣を変えようとしない患者さん
- エビデンスに否定的な同僚
- 自費治療に懐疑的な他職種
これらの人々が「おかしな人」なのではありません。彼らもまた、自分なりの経験と価値観の中で善いと信じていることを行っているのです。
そこでまず問いたいのは、
- 「この人にとって、よいとは何か?」
- 「この人は、痛みや回復をどう定義しているのか?」
という、その人の原則に耳を傾ける姿勢です。
「この人は、そう行動せざるを得なかったのだ」
この視点を持つことで、他者の行動や言動に対して必要以上に心を波立てることが少なくなります。驚いたり、憤ったりする前に、
- 「この人は、彼なりの道理で動いている」
- 「そこには、その人なりの納得がある」
と考えられるようになります。
これは、共感よりも一歩深い理解です。
そしてそれは、患者との信頼関係を築くうえでも、他職種連携を円滑にするうえでも、大きな力になります。
おわりに:臨床における“哲学の眼差し”を持つということ
臨床とは、科学だけでなく、人間と向き合う営みです。エビデンス、スキル、手技、すべて大切です。しかし、その根底にあるのは、「人間の多様性をどう受け止めるか?」という態度です。
どんな人に出会ったときにも、ただちに自分に問いかけてみてください。
「この人は、どんな原則で世界を見ているのだろうか?」
それが、今日のあなたの臨床を少しだけ柔らかくしてくれるかもしれません。
このように、他者の行動や言動を理解するためには、その人の持つ原則や価値観に目を向けることが重要です。臨床の現場での人間関係を円滑にし、より良いケアを提供するための一助となれば幸いです。